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2015年03月29日

U.S.ピストル・ベルト・30's~60's(The evolution of U.S. pistol belts)

こんにちは。
近所の公園の桜に、ほんの少し花が付きました。春ですね。
花見にはまだ早いですが、心が逸ります。でも今朝からしとしとと雨が降っております。定刻を2時間ばかり過ぎての投稿です。

さて、今回は1930年代から1960年代頃までU.S.陸軍及び海兵隊が使用したピストル・ベルト(正式な名称は変化していますが)を採り上げます。
前々回の記事「M1936 ピストル・ベルト(M1936 PISTOL OR REVOLVER BELT)」ではタイトル通りM1936ピストル・ベルトに特化してお送りしましたが、今回はそれ以降のピストル・ベルトを幾つかご覧いただきます。

↓まず、これをご覧ください。一見すると同じように見えます。↓



いちいち「〇番目」というのは分かりにくいので、番号を付けました。↓

上2つ①②はM1936ピストル・ベルト(Belt, Pistol or revolver, M1936)、③は海兵隊用の通称M1961ベルト(Belt, Individual Equipment)、④⑤は通称M1956ベルト(Belt, Individual equipment, M-1956 )です。以下順番に見ていきましょう。

↓まず①②③です。

①と②はM1936の単なる色目違いです。前々回の記事「M1936 ピストル・ベルト(M1936 PISTOL OR REVOLVER BELT)」をご覧ください。
③は、そのM1936に1つだけ設けられていたマガジン・ポケット連結用のスナップ・ボタンをもっと沢山設けただけのモノと言ってもよい通称「M1961」個人装備ベルトです。あとで触れますが、これは海兵隊(Marine Corps)が主力ライフルを陸軍同様M1(ガランド)からM14へ変更するにあたって陸軍とは全く別のマガジン・ポケットを開発するのに併行して、海兵隊用に開発されたものです。

↓②(M1936)と③(M1961)ではマガジン・ポケット連結用のスナップ・ボタンの数以外は「US」スタンプも同じです。


↓ベルトの長さを調節するための「折り返し」が、身につけた時に右側のみである点も同じです。


↓細かいことを言えば、「折り返し」の部分の「スライド・キーパー」の形状が改良されています。


↓「折り返し」部分の拡大です。

折り返して末端のサイズ調節ワイヤー・フックをベルトの中段に設けてある小さいハトメ穴に引っ掛けてベルト長を調節する仕組みはWWⅠ以来の伝統です。

↓もう少し拡大しました。

ベルト・キーパーの形状の違いがお解りいただけますでしょうか?上の旧型のモノはハトメを越えて動かそうとするときは少々タイトなので「えいやっ」と気合を入れないとだめですが、下の新型のモノはハトメの出っ張りの分だけ凸に曲げてあるので楽にハトメ越えが出来ます。

↓表から見たサイズ調節ワイヤー・フック。


↓ベルト内側のスタンプ。装着した時に左側に来る方の内側にありますので、バックルが画像右側にくるようにした方が見た感じがしっくりくる筈なんですが、スタンプが天地逆さまに施されているので、このようにしました。


↓まず②M1936を拡大。

「BELT PISTOL (ハトメを一つ越えて)REVOLVER M1936」、2段目にストック・ナンバー「74-B-265」。雌スナップボタンの下は、2段に分かれてメーカー名がスタンプされていると思います。その右側、ハトメを超えたところに多分「6 OCT 19**」との製造契約日のスタンプが施されているのではと思われますが、判然としません。手書きの文字は所有者個人名だと思います。

↓③「M1961」の拡大。

1段目「BELT, INDIVIDUAL EQUIPMENT」は制式名称。
2段目の「DSA100-67-C-1041」は、Diffence Supply Agency(国防供給庁とでも訳しましょうか)で定める管理番号です。DSAは1962年1月から合衆国軍への衣服・食糧・装備の調達任務を担っていた官庁です。なおDSAは1977年1月にDLA(Defense Logistics Agency(国防補給庁あるいは国防兵站庁とでも訳しましょうか) )と公式に名称が変更されます。
3段目「8465-823-6937」はFSNです。FSNとは「Federal Stock Number(連邦備品番号)」のことで、1953年から1974年まで用いられた11桁のコードです。政府所管の物品一つひとつに付与される管理番号です。
右端にやや大きく「M」とサイズ表記。Mはウェストが30インチ(約76cm)以下の人向けです。なお、これは着膨れした時も想定しての設定なので、Mだからと言って、例えばウェストが80cmの人だと装着できないという訳ではありません。目いっぱい長く調節した時は105cm位の腹回りまでは対応できます。その下の「-2-」は、恐らくメーカーのロット番号の類だと思います。

↓海兵隊用のM14小銃マガジン・ポケット(POCKET, AMMUNITION MAGAZINE, M14 RIFLE)を取り付けてみました。


↓マガジン・ポケットはこの様に裏側がループ構造になっていて、ループの内側に設えられた雄スナップをベルトの雌スナップに嵌めて連結します。因みにこのマガジン・ポケットにはご覧の通りループが上下2段に設えられています。どちらに通してもベルトに連結できます。兵士個人の体格に応じて、ポケットの上下位置を定めるのに有益です。


↓ベルトの隣り合う雌スナップに合わせてマガジン・ポケットを連結しますと、

この様にぴったり2つが密着します。

↓表側。ワイヤー・フックにより銃剣や手榴弾携行ケースなどを腰にぶら下げるには、ベルトの下列のハトメ穴がポケットで塞がっていてもマガジン・ポケットの下部に設けられたハトメ穴を使えるので問題は無いですが、サスペンダーでベルトを吊ろうとする場合には、このようにベルトの上部のハトメ穴がポケットにかなり邪魔されます。スナップ1つおきにポケットを装着するといいですね。


↓もう一つ「うーん」と思うのがこれです。

サイズ調整側(人体右側)へマガジン・ポケットを装着するには、スナップを活用しようと思えば、このようにスライド・キーパーをずらしてサイズ調整フックを外してポケットのループを通し・・・、

↓裏から覆い被せるようにして

再びフックを掛けなくてはなりません。もしくは・・・、

↓スナップを無視して単純にループにベルトを通すことになります。


↓こんな具合です。


↓M14ライフル用マガジン・ポケットだけでなく、雄スナップを擁するマガジン・ポケットであれば何でもスナップに連結できます。

例えばこのようにM1カービン用マガジン・ポケットであれば隣同士のクリアランスの関係で、やはりスナップ1つおきでないと装着できません。

↓余談ですが、この画像のように雌スナップにはバリエーションがあります。

③は楯状火山型で真ん中に穴が空いています。③´のモノは準フラット・穴空き型。あと、①②のような完全ドーム型のスナップを擁しているタイプのモノもあります。

↓③の拡大。


↓③´の拡大。

メーカーは著名な「RAU FASTENER CO」。


すみません。④⑤まで一気にとも思いましたが、長くなりますのでこの辺で一旦終わり、次回④⑤について触れたいと思います。

それでは次回また・・・。



  

Posted by Sgt. Saunders at 14:22Comments(2)米軍(U.S.)Pistol belts

2015年03月15日

M1カービン15連マガジン用パウチあれこれ(Magazine pockets for M-1 Carbine)

こんにちは。
当地大阪はただいま気温は10.8℃ですが曇天で寒いです。今にもポツポツと雨の落ちてきそうな空模様です。定刻を少し回っての投稿です。

宇宙人鳩山を巡って色んなことが言われていますが、政府・与党にとっては中川郁子農林水産政務官問題や集団的自衛権や周辺事態法や辺野古などの諸問題から国民の眼をグッと逸らせる絶好のネタ出現で、菅官房長官は上機嫌です。

さて今回は「M-1カービンの15連マガジン用マガジン・パウチ(制式名称としては「ポケット」です)」のあれこれについてお付き合いください。

↓まずは色目の違うモノ3個体。また後で触れます。


はじめに初心者の方向けに1つだけ講釈めいたものを。
いわゆる「M-1カービン15連マガジン・パウチ」として広く認識されているモノには、大別して2つのタイプのモノがあります。1つはM-1カービンのストック(銃床)に装着する「ストック・モデル」などと呼ばれているタイプのモノと、もう一つは「ベルト専用モデル」などと呼ばれているタイプのモノ。それらの呼び名(俗称)についての誤解を解き、正しい認識を持って頂きたいなと思い下の画像をあげます。本ブログで頻出の1943年8月版「QUARTERMASTER SUPPLY CATALOG Section 1」から16ページを抜粋したものです。

↑俗に左が「M-1カービン・マガジンポーチ ストック・モデル」などと呼ばれているモノ、右が「M-1カービン・マガジンポーチ ベルト専用モデル」などと呼ばれているモノです。しかし正しくは、それぞれのキャプションにありますように、

左:POCKET, MAGAZINE, DOUBLE, WEB, FOR CARBINE, CALIBER .30, M-1
  30口径M-1カービン用ウェブ製・ダブル・マガジン・ポケット

右:POCKET, CARTRIDGE, CALIBER .30, M-1, CARBINE OR RIFLE
  30口径M-1カービン又は小銃カートリッジ・ポケット
です。

また、それぞれのキャプションの下にある説明文を見ますと、
左:The pocket is made of web and provides a means of carrying two(2) clips for the carbine, caliber .30, M-1. Loop and snaps are provided on the back for attaching to the belt, pistol or revolver, or belt, cartridge, caliber .30, M-1923, mounted.(このポケットはウェブ製で30口径M-1カービン用の2個のクリップを携行する手段を供する。ピストル・ベルト又はM-1923乗馬部隊用30口径カートリッジ・ベルトに結合するためのループとスナップが背面に備えられている。)

右:The pocket is made of duck and is designed to carry two(2) clips of ammunition for the M-1 rifle or carbine. It has a loop on the back, through which the pistol belt is inserted.(このポケットはズック製でM-1小銃又はカービン用の2個の弾薬クリップを携行できるように設計されている。ピストル・ベルトを通すループが背面にある。)

上記の通り、左がM-1カービン専用のモノ、右がM-1カービン・M-1小銃(ガーランド)兼用のモノであることが分かります。左が「『ストック・モデル』である」と、まるでストックに取り付けて使うのが軍正式の使用法であるかのような、また、ベルトに通して使うことは出来ないのか?との疑問が湧くような記述は正確性に欠け、たまたまストックにも通して使う事が出来、それが兵士の間に広く広まった結果であるということがお分かりいただけたと思います。実際にM-1カービンのマガジンやM-1小銃のクリップを入れてみた図は、過去投稿記事WWⅡU.S.マガジン・パウチ(その2)(WWⅡU.S.magazine pouches:#2)」でご覧下さい。


↑上掲のカタログ画像に合わせて、実物をご覧ください。マガジンを入れたままの状態ですが。


↑裏面です。左のM-1カービン専用のモノはM1911(A1)ピストル用のマガジン・ポケットと同様ピストル・ベルトに通してスナップで固定できるようになっています。このループ部分が大きいので、M-1カービンのストックに通して使う事も出来たというだけのことです。決して「ストック用」という訳ではありません。右のM-1カービン・小銃兼用のモノはピストル・ベルトの幅のループがあるのみですから、当然ストックに通すことはできません。


↑フラップを閉めた状態の比較。

以上、ここまで「『ストック・パウチ』なる表現の不正確性について」でした。

冒頭の画像を再び揚げます。

「POCKET, MAGAZINE, DOUBLE, WEB, FOR CARBINE, CALIBER .30, M-1」(30口径M-1カービン用ウェブ製・ダブル・マガジン・ポケット)、すなわち「M-1カービン専用マガジン・パウチ」3個体です。異なるのは色目だけです。
左は全体が「カーキ」、中央はポケット部が「OD」でフラップ部が「カーキ」、右は全体が「OD」です。大体1943年頃に他の装備品と同様に「カーキ」から「OD」へと色目(色調)が変わりました。中央のモノのように色目の違う部材が組み合わさって2トーン・カラーになっているのは決して珍しくありません。この色目の変更は「ODシェード#3」から「ODシェード#7」への変更であるというのも、初心者の方以外はご存じの通りです。軍では「カーキ(khaki)」という語はカタログ上用いておらず、あくまで色は「OD」であり、その「シェード(shade)(色調)」を変えただけです。我々が俗に「カーキ」と呼んでいるのは「ODシェード#3」或いは「ODシェード#9」のことであり、「OD」と呼んでいるのは「ODシェード#7」のことです。というのも初心者以外の方ならご存知の通りです。と言っても消耗具合やメーカーによって色調にはかなりの幅があるのも事実ですが。


↑はい、どれも同じ形状です。真ん中の個体には「S-3984 S-9502」という表記があります。使用者の名前のイニシャル1文字と認識番号の下4桁の組み合わせです。AR(Army Regulation)850-5で兵士が各自の持ち物へ記名する方法として定められています。使用者が変わればこの個体例のように抹消して新たに記入します。


↑裏面。ベルトへ結合するための凸スナップがループの内側を向いて設えられています。


↑AVERY 1943年製。


↑HOFF 1943年製。


↑H. ST.Co.(Harian Stitching Co.) 1943年製。色目の違いがあっても全て1943年製です。


↑ちょっと変わり種を。左は今見てきた普通の30口径M-1カービン用ウェブ製・ダブル・マガジン・ポケット。


↑中央のモノは…


↑裏面のスタンプで分かりますね。U.S.M.C.、海兵隊用のM-1カービン用マガジン・ポケットです。BOYT 1945年製 契約番号47218。
海兵隊用のパウチにはこの個体のようなタイプと、今まで見てきた陸軍用の一般的なモノと作りが殆ど同じで、異なるのは裏面のスタンプと下で触れるM1911(A1)ピストル・マガジン用に改変するための縫い糸だけというモノもあります(「BOYT 1944年 契約番号43055」や「S.F. CO Inc 1943年 契約番号39061」など。 しかも同メーカー同製造年同契約番号で上の画像と同じ作りのモノも確認したことがあります)。


↑この個体のスナップはSCOVILL製です。


↑表側。フラップを開けました。15連マガジンが2つ収まります。


↑左の標準型のモノと比較。マガジンが高い位置までポケットで隠れており、マガジンをつまめる部分が小さくて取り出しにくそうな印象を受けます。なお、このパウチのポケットの下の方にある縫い糸を切ればポケットが深くなり、M1911(A1)ピストルのマガジン・パウチにもなります。↓これです。


最後に右端の、かなりくたびれて色褪せたモノ。↓

フラップもポケット部も全部ウェブ製です。


↑フラップがトンガリ形状で、隣の海兵隊用のモノと良く似ています。


↑Lift the Dotの雄部品の土台となるウェブ・テープがポケットの側面まで回り込んでいます。フラップ前端だけでなく横(縁)も折り返してあります。


↑フラップの留め具はLift the Dot。この様に自ら名乗っております。


↑裏側の座金は凸凹の少ないフラットなタイプ。良く見られるのは↓こんな風にモモンガが飛んでいる時のような凸凹があるタイプです。↓



↑フラップ裏側。留め具の直ぐ下に最初の使用者の記名(W-4???)が白いペイントで上塗りされ(かなり剥げていますが)、その左に新たに「P505?」との記入があります。その下のスタンプは判然としませんが「ブリティッシュ・メイド」をしめす内容の筈です。そうです、この個体はアメリカ国内での生産を補う英国製「ブリティッシュ・メイド」です。全体がウェブ製、三角フラップ、縁の折り返し処理、Lift the Dotの雄部品の土台のウェブ・テープが側面まで回り込んでいる、これらの特徴があります。


↑裏面です。ピストル・ベルト等に結合するためのループ構造とスナップがUS製と同様に備えられていますが、スナップがかなり下の方に位置しています。また、使用者の履歴を示す表記がたくさんあります。デッド・ストックではなく、こういう表記があるものを見ると「これらの持ち主はどのような経験をなさったのかなぁ」と思いを馳せます。デッド・ストックは単なる余剰物資(サープラス(surplus))ですが、中古品は「少なくとも1人以上の兵士個人の歴史遺産」であり、所有させてもらっているという畏れ多さを感じます。


↑スナップは無銘です。


以上縷々見て参りましたが如何でしたでしょうか?
ブリティッシュ・メイドや海兵隊モデルは、程度にもよりますが一般的なUS製のモノに比べると値は張りますが、入手機会は比較的多いと思います。eBayでも割とコンスタントに出品されているようです。むしろ最近は非常に良く似せて作られたレプリカが本物として販売されていることに注意を要します。「本物とフェイク(fake)の違い」などとどこかで公開すると、それを参考に悪いヤツがより精巧なフェイクを生むという悪循環が生まれるのは何とも遣る瀬無いですね。


それでは、また・・・。  

2015年03月01日

M1936 ピストル・ベルト(M1936 PISTOL OR REVOLVER BELT)

こんにちは。
2月があっという間に過ぎ去り、もう3月です。3月とは言え、雨が冷たく降る大阪から定刻を少し過ぎてお送りします。

今回は私のメイン蒐集対象であるWWⅡ米陸軍歩兵装備から、M1936ピストル・オア・リヴォルヴァ・ベルト(制式名称:Belt, Pistol or Revolver, M1936(ストック・ナンバー74-B-265)、以下「M1936ピストル・ベルト」とします)を採り上げます。


一般の歩兵はM1923 dismounted Cal..30 cartridge belt(M1923 カートリッジ・ベルト)を用いていましたが、M1ライフル・M1903ライフルを持たない者、つまりカービン銃とピストルで武装する将校や、兵・下士官でもサンダース軍曹のようにライフル銃ではなくカービン銃やサブマシンガンで武装する者、あるいは医療部隊兵(Medics)などがこのベルトを用いておりました。

実は前回の投稿で少し触れましたが、ある方(Oさん)から次のような質問メールを頂戴していたのでした。

「US M1936ピストルベルト・・・1936という割には、1940年以前の年号スタンプのある物は見たことがありませんが、M1912の在庫が大量にあって、生産・支給がスタートしたのは1941年からということなのでしょうか??」

そこで、私のコレクションを調べたところ、スタンプがかすれたりフェードアウトしていて見辛くなっており、1936~1939年製のものであるといえる個体がありませんでした。おそらくOさんのおっしゃる通り、本格的な量産が始まったのは1941年頃だったからだと私も推測します。1941年の参戦前は、正規軍・州兵(ナショナルガード)の数も参戦後に比べるとまだその数は格段に少なく、M1936ピストル・ベルトの前身であるM1912の在庫量で十分賄えていたと思われます。1936年から1940年頃のスタンプを持つM1936ピストル・ベルトは、その間全く製造されていないというのも変ですから、存在するとは思われますが、その数はとても少ないのではないかと思います。実際今もネットで1940年以前のスタンプを持つM1936ピストル・ベルトを探してみましたが見つけられませんでした。

さきほど「M1936ピストル・ベルトの前身であるM1912」と書きましたが、それらの大きな違いはバックルが容易に外れないような若干の改良が加えられた程度です。ピストルベルトに限らず、特に著しい支障が無ければ在庫品をそのまま無くなるまで使い続けるのは米陸軍では普通に行われていましたので、M1936が制式化されるや否や直ちにM1912の使用・支給が止まったのではなく、M1936が生産・支給されながらも、M1912もその在庫が無くなるまでは支給され続けられていたと考えられます。多くの場合、新制式モノが出ると旧式モノは「Limited Standard(限定採用)」とされ「to be issued until exhausted(在庫が尽きるまで支給される)」として無駄なく利用されました。そのような理由で1940年以前のスタンプを持つ個体はとても少なく、貴重であるという結論に至りました。Oさん、メール有難うございました。

↓前置きが長くなりましたのでもう一度。
M1936ピストル・ベルトの一例です。色目以外はほとんど同じですが(当然といえば当然ですが)細かく見ると差異があります。

一番上はODシェード#7(いわゆるOD色)、2、3、4番目はODシェード#3(いわゆるカーキ色)のモノです。
また、バックルは、一番上と2番目のモノは真鍮製、3、4番目のモノは亜鉛合金製です。他の装備品にも共通しますが、大戦中半になると真鍮は貴重品になり、亜鉛合金などに代替されるようになりました。

↓バックルを外して拡げました。メーカー等のスタンプは大体この辺りに施されます。

以下、順に見ていきましょう。

↓まず一番上のモノ。あれ?文字が上下逆さまです。

画像を上下ひっくり返しました↓

↑雌スナップボタンの上に制式名称である「BELT PISTOL (ハトメを一つ越えて)REVOLVER M1936」、2段目にストック・ナンバー「74-B-265」。雌スナップボタンの下は、恐らくメーカー名が2段に分けてスタンプされているのだと思われます。その右側、ハトメを超えたところに多分「6 OCT 19**」との製造年月スタンプが施されているのではと思われますが、判然としません。手書きの文字は使用者「C.W.RUSSELL」(?)の個人名だと思います。私はこの個体はWWⅡ時の製造ではないと考えています。形質・特徴はWWⅡ時と全く同じですが、メーカー名・製造年だけでなく、制式名称や製造月日、ストック・ナンバーまでもがスタンプされ始めるのは朝鮮戦争時ぐらいからだからです(製造年月だけであれば一次大戦以前にはスタンプがありました)。

↓2番目のモノ。

恐らく「S.F.CO.Inc」と省略しない「S. FROEHLICH Co., Inc.」だと思うのですが。雌スナップのすぐ上のスタンプは恐らく製造年を示していると思いますが判然としません。

↓3番目のモノ。「S.F.CO. Inc」「1942(1943?)」のスタンプ。


↓一番下のモノ。スタンプの類は全くフェードアウトしています。表の「U.S.」も微かに跡があるという程度です。

因みにこの個体は私がWWⅡUS装備品を蒐めだして間もない時に大阪のM.A.S.H.さんで破格で入手したモノです。ベルト・キーパーは一つは欠品、ハトメも一部欠損、全体的にクタクタで品質は低いものの、その頃の私の可処分所得(まだお小遣いしかありませんでした)で何とか買える金額でした(もう25年程も前、確か2,500円だったと記憶しています)。カーキ色のピストル・ベルトが手に入ってとても喜んでおりました。その頃はまだ、いわゆる「カーキ病(OD色よりもとにかくカーキ色のモノの方を強く求める偏執狂的症状をしめす疾病)」に囚われていました。

↓反対側、長さ調節側を見ていきます。まず4つまとめて。

一番上は「リブ付き真鍮板爪ロック」ベルト・キーパー。
2番目は「のっぺら真鍮板ろう付け」ベルト・キーパー。
3番目は「のっぺら鋼板爪ロック」ベルトキーパー。
4番目一番下は、画像で右側のグレイ色の方は「のっぺら鋼板爪ロック」、左側のは「リブ付き鋼板爪ロック」。「」内は私個人の勝手な命名です。

↓まず一番目のモノ。先ほどこの個体が「朝鮮戦争時のモノ」と申しました幾つかの根拠の別の一つでもあるのですが、ベルト・キーパー、長さ調節用の「ベルト末端被せ金具」、バックルとも潤沢に真鍮が用いられています。大戦終了後再び物資が豊富に使えるような時代になったからです。


↓「リブ付き真鍮板爪ロック」ベルト・キーパーの拡大。リブの有無と材質のほかは3番目のモノのキーパーと同じ「爪ロック」です。


↓2番目のモノ。ベルト・キーパーが「のっぺら真鍮板ろう付け」で、長さ調節用の「ベルト末端被せ金具」も真鍮製であることから、まだ真鍮を贅沢に使えていた大戦初期の製造だと思われます。



↓3番目のモノ。「のっぺら鋼板爪ロック」ベルトキーパーと鋼板製長さ調節用の「ベルト末端被せ金具」です。大戦中半には真鍮は貴重品になり、亜鉛合金や鋼などに代替されました。この辺はドイツ軍と同様ですね。



↑一番目のモノと同じロック方法です。穴に爪を通して反対側に折り返してプレスして固定。

↓4番目のモノ。左のキーパーは「のっぺら鋼板爪ロック」。右のキーパーは「リブ付き鋼板爪ロック」ですが、これは実は中田商店製のレプリカWWⅡODピストルベルトのキーパーを移植したものです。私がこの個体を入手した際左のキーパーしか残存していなかったので、外見を改善するつもりで移植したのですが、左のモノと全くマッチしていません。

長さ調節用の「ベルト末端被せ金具」は鋼板製。


最後になりますが、マガジン・パウチ固定用の雌スナップ・ボタンは私の蒐集品では全て真鍮でした。

以上見て参りましたが、物資の欠乏はアメリカにもあったという事を再認識することになりました今回の記事、いかがでしたでしょうか?
最近はeBayなどで「U.S.」スタンプの無い、Lend-Lease法に基づく「ソ連向けのM1936ピストル・ベルト」が大量に出回っているみたいですが、あまり人気は無いようですね。私は一つは手に入れてみたいなと思っています。入手の暁にはまたご紹介したいと思います。

それでは、また・・・。


  

Posted by Sgt. Saunders at 12:45Comments(0)米軍(U.S.)Pistol belts